ciccioneの日記

30歳を過ぎて見切りで会社を退職した人間が、再び収入を得るような仕事に就けるまでの日々を記録していきたい。

決戦は金曜日

9月8日(金)。

「商社マンって暇なのかな?」という入り方で、智子から合コン開催日の連絡が入った。そういう自分も暇じゃね?と心の中でツッコミを入れる。ただ、よくよく考えてみたら、その日が空いていた自分も暇人だと、ちょっと自分に萎えた。それにしても案外すぐの日程だったな。

日程が早く決まったのもすぐに答えが分かった。先方が4人も揃えられないから、ということだった。まぁそうだろうな。商社マン忙しそうだし。そもそも8人で予定を合わすのは至難の業だもの。結構当然のような話だった。

で、なぜ私?

そこには全く触れられていない。ゆきは結婚しているから、そんな現実的な人数の飲み会には参加しないってことになったんだろう。でも潤ちゃんは?

「先輩、稟議書いてみたんで、読んでもらえますか?」

「あっ、うん。そこに置いておいて」

ダメダメ、仕事しなきゃ。ゆみちゃんは、こないだ校正の指摘をしてから少し自信を無くしたのか、一つ一つ確認を取ってくるようになった。おかげで安心できるようになったけど、稟議の校正となるとまた時間が食われてしまう。人を育てるって大変だな。30になって改めて思う。20代は自分のことだけしか考えていなかったんだなとも。

 

「8日(金)になりました。ごめん人揃えられなくて2−2になった」

大石からメールがきた。だろうな、こっちも同期以外の人間がいる場は、身内側としても気まずい。それにしても急だな。自分も空きって言っちゃったんだけど。

「檜山さん、ちょっとこの請求書見てもらってもいいですか?なんか数字が発注書と違うんですけど…」

「ん?」

庶務の高橋さんが眼光鋭く迫ってきた。確かに発注していないものが請求書に含まれている。この費用はなんだ。もう一度発注書を確認し、急いで取引先に電話をかける。月次処理真っ只中で、今のままだと処理ができない。担当者が会議で離席中とのことだった。急ぎ確認したいことがあるから折り返し電話をしてほしい旨の伝言を残してもらった。この時間にか…

「檜山ぁーどうだー」

”ぼやきの山田”からの誘いが入った。

「すいません、ちょっと請求書に誤りがありまして…」

そっかー、大変だな、とぼやきながら違う人を物色しに行った。やれやれ。取引先と連絡が取れたのは19時を回っていた。使い回しの請求書フォーマットで、他の会社への請求分がうちにたってしまったとのことだった。原本は郵送で、急ぎ写しをPDFで送ってもらった。これでなんとか高橋さんの機嫌は収まった。

帰り道、いつものコンビニでビールを買い、一人の時間に浸りたくていつものベンチで飲むことにした。それにしてもすっかり秋めいてきたものである。

あっ。

先客がいた。それもショートの女性が。ちょっと躊躇し、足を止めたのに向こうも気づいて目が合った。紛れもなく、「いすゞ」で見かけた女性だった。

「あ、ごめんなさい」

「あ、いえ。こちらこそごめんなさい」

女性はそそくさと立って小走りで消えて行った。自分も立ち止まったまましばらくその背中を見つめてしまった。

同じマンションだったんだ。何かじわっとするものを胸の内に感じた。