ciccioneの日記

30歳を過ぎて見切りで会社を退職した人間が、再び収入を得るような仕事に就けるまでの日々を記録していきたい。

これってどう映るんだろう。

「今日はありがとうございました…」

「いえ、こちらこそ…」

10分ほど前に大石と智子さんと解散した。JR組と京急組で別れた。そして今、京浜東北のホームに千恵さんと並んで立っている。見かけていることを言っていいのか、とりあえず当たり障りのないことを。でもこのままマンションまで一緒。

はたから見たらどう映るんだろう?

なんてだいたい周りはなんとも思わないことを考える。結局食事会の場は大石・智子ペアのテンションで流れていき、それに相槌を入れる程度で、打ち解けた!って感じでもなかった。今後会うことがなければいいけど、マンションが一緒だし。色々悩ましい。

「檜山さんっていつも…」

大事なところで電車轟音をあげて入って来た。

「えっ?」

ドラマでよくあるシーン。こういう時に実際に起きるとは!

「あ、いや。どうでもいいとこだから大丈夫です」

照れてる。か、かわいい。あ、やばいこの感じ。久しぶりの感覚だ。

一生懸命何を言おうとしてたか探る。

「結構マンションの下のベンチ好きなんですよね。時々会社帰りに家に帰る前にあそこでスイッチをオフにしてから帰るんです。柄になく空見上げたり」

とりあえず可能性で独り言っぽく電車に乗りながら言ってみた。

「えっ…なんか分かります…」

閉まる扉の外を見ながら千恵さんが呟いた。窓越しで見るその顔は伏し目がちだったが、なんか今日初めて少し近づいた一言のように聞こえた。

仲直りってどうすればいいんだろう。②

仲直りってどうすればいいんだろ。

表向きは普通に戻った。でも見えない行間のところにズレを感じる。

前まで見えなかったズレ。

少しのベクトルの違いが、最初は同じ方向を向いていたはずなのに、いつのまにか時と共にその差は開いていくばかり。もう戻ることはないんだろうか。

些細なことがきっかけなのに。

くだらないことで盛り上がって、ちょっとしたことでも一緒に一憂して。

何事もいつかは終わりを迎える。

やっぱ人付き合いもそうなのかな。

人付き合いに真面目すぎるってどういうことなんだろう…

嘘はつけない…

「千恵さんは何のお仕事されてるんですか?」

「あ、私は一応化粧品関係の仕事をしています」

「めっちゃ華やかな世界ですねぇ!」

「や、そんなことないですよー。地味なことばっかですよ」

大石さん感謝。とりあえず対面と直接いきなり話すことにならなくてよかった。でも、そんな避けるほどのことないのに、何を意識してるんだろ、私。何も檜山さんのこと知らないのに。スーパーで見かけて、マンションで見つかっただけなのに。

「お二人はどんなお仕事されてんですか?」

よし、さりげなく聞いてみた、自分!

「僕は、リテール関係。あ、いわゆる商品卸の仕事ですね。だから、智子さんの会社が取引先になるんで、よく出入りさせてもらってんです。で、檜山は不動産営業部。めちゃくちゃ商社とか言いながらドメスティックな仕事してるんです、僕ら(笑)」

「お前なんでも俺の紹介しすぎだろっ。話すことなくなるわ!」

「なんかいいコンビですね。ふふ。」

あ、檜山さんが口を開いた。不動産営業やってんだ。確かに誠実さはある、大石さんのノリのよさと違って。そして智子の合いの手で「ふふ。」ってほんと女の子っぽい声を出すな。

「そういえば、お二人はどちらに住んでんですか?」

やばいキタ、この質問。

「私は不動前で、千恵ちゃんは新丸子ですよぉ」

「不動前って、芸人さんがいるとこじゃん!誰か会った?って千恵さん新丸子なの?あれ檜山、もしかして一緒??」

智子…

 

やばーい。キタこの質問。やっぱり教科書通りのやつを大石聞きやがった。そして俺に振るんじゃない。はぁ、どうやってこの状況を乗り切るか。しょうがない、シラを切るしかないか…ってかなんで何の関係のない人に対して俺はドキドキしちゃってんだろう。

「新丸子、一緒ですね!どのあたりに住んでんですか?ってそこまで聞いたらストーカーみたいですよね(笑)」

ピクッと一瞬反応して見えた。

「駅をちょっと行ったところにあるセブンの近くです…檜山さんは?」

うっ、きっと話の展開上向こうも合わせてきてくれたんだろう。嘘をつくべきか、本当のことを言うべきか…

「あっ、俺もあのコンビニの近くなんです…もっ、もしかしたら会ってるかもしれないですね?」

何言っちゃってんだ俺。初対面だよ、あくまでも初対面。少なくとも話すのは。しかもこんな時に噛んでしまうとは。んー、逃げ出したい。でも、これってチャンスなのか?何をこんな時に考えてんだ。相手には相手がいるかもしれないわけで。

「帰りは期待しろっ」

ニヤつきながら大石が小さな声で耳打ちをしてきた。

えっ、千恵さん…?

「先輩、もう帰ります?相談したいことが」

「急ぎ?ごめん。週明けでもよければ週明けでもいい?」

「あ、はい。大丈夫です」

ゆみちゃんから相談を持ちかけられたが、ちょっと今日はお断りした。ちょっといつもより身なりをよくしてたから察してくれたのかな。ちょっと急ぎっぽかったけど。でもゆみちゃんももう3年目だし、それなりに他の人に相談してくれるかな。

18:30智子と作戦会議と称して待ち合わせをした。ちょっと早い時間だったけど、サマータイムだから時間的には余裕があった。作戦会議とは言ったものの、結局智子とその商社マンとの出会い方について話を聞いただけだった。

場所は品川の「el caliente」。19:00お店に入ったら既に男性2人が席に着いていた。

「お待たせしましたー」

智子がいつもよりちょっと高めの声を出して席に向かって行った。この子のこの女の子らしいところにちょっといつも尊敬する。

「はじめまして。智子の友人の…」

あっ!!?

向かいに居た男性の一人が、あの見かけたことのある人だ。と言うかこの間マンションの下で一人でくつろいでいた時に見つかってしまった人だ。やばいやばい、どうしようどうしよう。変に思われてるんじゃないかな…

ちょっとした動揺を智子は少し訝しんだが、そのままもう一人の男性と話しながら席に着いていた。

何か会話を探さないと。目がなんか合わせられない。先日お会いしちゃいましたね、なんて言えないし。どうしよう私。変に映ってないかな。まずは何事もなかったように冷静に冷静に。

 

予定の時間より少し早めに、大石と予定のお店に着いた。大石は会社の外で会えるのが楽しみといったような様子だった。智子さんがどう言う人でと行きの電車の中でも語られた。一応、一緒に来る千恵さんについてもショートの大人っぽい女性だとは聞かされてきた。俺は今日千恵さんの相手をすればいいんだな。

女性陣がやってきた。

あっ!?

智子さんはすぐに「お待たせしましたー」と来たからすぐ分かったが、千恵さんってあの人だったのか!えっ、どうしよう俺。まさかこんな展開で会うとは。何、何て話しかければいいんだろ。こないだはゆっくりされてるところお邪魔しましたなんて言えないし、「いすゞ」でなんてことはもっと言えない。何も気づいていないふりするか。でも相手も完全にこっちを認識している。う〜ん、何この状況。まずはお酒か。お酒じゃないか。

お互い変に立ったままな状態になってしまった。

「あっ、どうぞ座ってください」

とりあえず当たり障りのない言葉をかけた。

「何?なんかあった?」

大石がズカズカと人の混乱に入って来た。

「千恵さん、初めましてだけど、こいつちょっと人見知りなところがあるんで許して。あ、俺大石です。で、こいつは檜山。会社の同期なんです」

お、とりあえず大石よくやった。とちょっと思った。でもなんか気まずいー。このあと普通の展開なら、どこに住んでんですか?って話になって、なんだ二人同じ駅なんじゃん。奇遇だね。なんてことを大石は言いだすだろう。いやいや、マンションまで一緒なんじゃい。

向こうをちらっと見ると、ちょっと目を伏せられる。まぁ、そうだよな。ついこないだマンションで会っちゃったばっかだし。ぬーん。

場はさすが営業。大石の段取りで整えられてった。

決戦は金曜日

9月8日(金)。

「商社マンって暇なのかな?」という入り方で、智子から合コン開催日の連絡が入った。そういう自分も暇じゃね?と心の中でツッコミを入れる。ただ、よくよく考えてみたら、その日が空いていた自分も暇人だと、ちょっと自分に萎えた。それにしても案外すぐの日程だったな。

日程が早く決まったのもすぐに答えが分かった。先方が4人も揃えられないから、ということだった。まぁそうだろうな。商社マン忙しそうだし。そもそも8人で予定を合わすのは至難の業だもの。結構当然のような話だった。

で、なぜ私?

そこには全く触れられていない。ゆきは結婚しているから、そんな現実的な人数の飲み会には参加しないってことになったんだろう。でも潤ちゃんは?

「先輩、稟議書いてみたんで、読んでもらえますか?」

「あっ、うん。そこに置いておいて」

ダメダメ、仕事しなきゃ。ゆみちゃんは、こないだ校正の指摘をしてから少し自信を無くしたのか、一つ一つ確認を取ってくるようになった。おかげで安心できるようになったけど、稟議の校正となるとまた時間が食われてしまう。人を育てるって大変だな。30になって改めて思う。20代は自分のことだけしか考えていなかったんだなとも。

 

「8日(金)になりました。ごめん人揃えられなくて2−2になった」

大石からメールがきた。だろうな、こっちも同期以外の人間がいる場は、身内側としても気まずい。それにしても急だな。自分も空きって言っちゃったんだけど。

「檜山さん、ちょっとこの請求書見てもらってもいいですか?なんか数字が発注書と違うんですけど…」

「ん?」

庶務の高橋さんが眼光鋭く迫ってきた。確かに発注していないものが請求書に含まれている。この費用はなんだ。もう一度発注書を確認し、急いで取引先に電話をかける。月次処理真っ只中で、今のままだと処理ができない。担当者が会議で離席中とのことだった。急ぎ確認したいことがあるから折り返し電話をしてほしい旨の伝言を残してもらった。この時間にか…

「檜山ぁーどうだー」

”ぼやきの山田”からの誘いが入った。

「すいません、ちょっと請求書に誤りがありまして…」

そっかー、大変だな、とぼやきながら違う人を物色しに行った。やれやれ。取引先と連絡が取れたのは19時を回っていた。使い回しの請求書フォーマットで、他の会社への請求分がうちにたってしまったとのことだった。原本は郵送で、急ぎ写しをPDFで送ってもらった。これでなんとか高橋さんの機嫌は収まった。

帰り道、いつものコンビニでビールを買い、一人の時間に浸りたくていつものベンチで飲むことにした。それにしてもすっかり秋めいてきたものである。

あっ。

先客がいた。それもショートの女性が。ちょっと躊躇し、足を止めたのに向こうも気づいて目が合った。紛れもなく、「いすゞ」で見かけた女性だった。

「あ、ごめんなさい」

「あ、いえ。こちらこそごめんなさい」

女性はそそくさと立って小走りで消えて行った。自分も立ち止まったまましばらくその背中を見つめてしまった。

同じマンションだったんだ。何かじわっとするものを胸の内に感じた。

 

燃え尽き症候群

久しぶりに味わうこの感じ。

会社員の時にはもう感じることのなかったこの感じ。社会人の時、大きな作業、大きな金額を動かしても、達成感的なものはあった。ただ、いくら大きくても次の仕事(というか総務という業務柄雑用)が降ってくるから、燃え尽きてる暇がなかった。

通ってる講座の卒業制作含め評価を受ける課題が全て終了。

講座はまだ卒業制作の講評を含め1ヶ月残っているものの、取り組むものがない。この脱力感。高校生が最後の夏の体育祭やら文化祭を終え、もう受験勉強という時に感じるもの以来かもしれない。というか高校は留学してて、最後の夏の体育祭で何か一生懸命した記憶がないから、物凄く久しぶりな感情である。中学以来?

やっぱり、こういうのは何かしながら通うのが精神衛生上いいのかもしれない。結果は今ひとつ。これだけに時間を注いでいたから言い訳ができない。言い訳できないことほどしんどいことはないかもしれない。働きながら通っている人と全て実力の差。働きながらであれば、忙しかったをいくらでも言い訳にできる。

この道は自分にとって向いているものなのか。

好きなら向いていると思います!という子もいる。でも、この歳になると、というか自分が倒れた経験上、報われない努力があることを知っている。

はて、これから先どうするか。

引き続き何か専門コースに通うか、それとも仕事を何か始めるモードに入るべきか。この結果の状態で。元ざやか転職か。意外と燃え尽きている場合じゃない。

分かってはいるけど、何も手につかない今日この頃。大したコネもなく自力で生きていこうとするのは、やっぱ無謀なのだろうか。いや、無謀ではある。どうする俺。

出会うの?

案外あっさりだった。

友人たちとちょっと揉めた件、自分の中で妥協した。ゆき宛に

「こちらにも言いたいことはありますが、反省中」

とLINEを送ったら一日丸々既読スルー。

マジか。逆に向こうがキレるパターンのやつ?しょうがないから再度

「ごめん。」

と翌日送る。ようやく返信が。ひとときの安堵。でも距離感はバシバシ感じる。まぁ、致し方なし。結局怒った方が損するのが相場なのかもしれない。一応表面上は案外あっさりといざこざを解決することができた。ただ、まだ会ってないから会った時のファーストコンタクトをどうするかが当座の課題である。

因みに智子が相談したかった、と言うのは本当にどうでもいい話だったが、合コンをしたい、ということだった。本当に中身がない。この歳でか。そりゃ、話も脱線の方向へ進むわと、ちょっと真剣に相談に乗ろうとした自分自身にツッコんだ。

相手は商社マン4人。智子、ゆき、潤、私の4人でと言う話で進めたかったらしい。この歳で4対4は余計にないわ。どうやら久しぶりに会った同級生と盛り上がってこの話になったらしい。

 

 

同期の大石から、またメールが来た。

「また愚痴か。」

そう思ってメールを開いたら、意外な内容だった。まさかの合コンの誘い。愚痴る前にこれくらいの内容で呼び出しをしたのなら、さっさと言ってくれれば良かったのに。

なんだか飲んだ日を思い出してげんなりしてしまった。この話をするために呼び出し、散々愚痴った上で嫁に怒られ、そそくさと帰る姿、悲しいかな。

ことの経緯は営業先の受付の娘と仲良くなり、そういう話に至ったんだとか。こいつ妻帯者のくせしてそんなことやってんのか、逆に頼もしいわ。しかも4対4という大人数。どう呼び合ってんのか知らないけど、智子さん、ゆきさん、千恵さん、潤さんと下の名前での事務連絡。クレイジーすぎる…もはや感心。

同期唯一の独身”檜山”として槍玉に上げられたんだろう。でも残りはどうするのだろうか。日程も未定。なんだか実現すんのかねぇ。

「とりあえず考えておきます」

とだけ打って返信した。

この歳になってもさすがにちょっとは出会いは欲しい。でも紹介とかじゃなくて合コンっていうのがネックである。。