一人飲みも悪くない。
今日は一人でいすゞに来た。いつもなら部長と一緒だが、部長は娘さんの結婚式の云々で誘ったものの珍しく断られた。あまりにも珍しく、つい驚いた顔をしてしまった。
「なんだ、おかしいか?」
ついつい出た自分の表情を読み取られてしまった。でもこちらからの誘いに悪い気がしないといった顔を部長はしていた。
いつもと同じ小道を進んでいく。表通りは人通りが多いのに、この道一本入るだけで随分と雰囲気が違って来る。ネオン街ではなく、民家のような静けさの中にある一見普通の家なんじゃないかと思う店構え。
店の中はいつも通り、そこそこ人が入っている。意外と一人で来るのも久しくなかったので、ちょっと緊張してしまった。
でも注文はいつも通り、唐揚げにハイボール、枝豆に豆苗の炒め物を頼んだ。ここの豆苗がうまいのである。さっと炒めただけなのに、なぜかご飯が何杯もいける美味しさになるのである。
ハイボールを飲みながら思う。このお店に彼女は一人で来ているのかと。最近はお店でも滅多に見ないから思い出すことがなかったが、いざ彼女が座っていたカウンター席に着いてみると思い出す。そして思う大人だなと。
その時、お店の戸が開いた。まさかの彼女が入って来たのである。慌てて会釈をする。向こうも気付いたらしく会釈をしてくれた。どうやら覚えていてくれたらしい。なぜか少し安堵した。
座る席を探しているようだったが、そこは間髪入れず店員が空いていた自分の隣の席を通した。会釈したから、待ち合わせの客だと思ったのだろうか。こういう時、なんて声をかけたらいいのだろう。迷いながらも言った
「お久しぶりです」
が、なんともハモってしまった。二人して苦笑。待ち合わせの客でもないのに会話を探している自分。なんとも滑稽だ。