はじめての二人飲み。
結局実家からの通勤はほんの少しで止めた。なんだか居心地の悪さと居心地の良さが混在していて、それが妙に気持ち悪かったから。甘えてしまう自分とそれに抵抗しようとする自分。そんなのがなんだか嫌になった。家を出る時、母親は何も表情は変えず「また帰ってきてらっしゃい」とだけ言った。
しばらく実家にいたから自炊する気にはなれず、久しぶりに「いすゞ」に来た。水曜だったせいか盛況のようだった。ちょっと席を探していたら、そこには見かけたことのある顔があった。
檜山さんだ・・・
すぐさま会釈した。ここで引き返すのも失礼だ。でも他に席が空いているわけでもない。そうこうしているうちに店員に席を案内された。檜山さんの隣を。
「お久しぶりです」
声がかぶった。自分の声は上ずっていなかっただろうか。しばらくお互い照れた。夏以来の再会。同じマンションに住んでいるのにしばらく会っていなかった。でも不思議とそんなに時間が空いた気がしない。
レモンハイを頼んだ。料理も注文しようとしたけど、狭いカウンターの席、何品も頼めるほどのスペースがない。料理の注文は少し空いてからにしよう。
「お疲れ様です」
とりあえず檜山さんと乾杯をした。何を話そう・・・お互いそんな空気だったと思う。夏の空を見ながら話した時はどんな話をしていただろうか。そう思い返しているときに、そっと檜山さんがお皿を差し出した。
「もし良かったらこれどうぞ。お皿を減らして頼みたいものを頼みましょ。」
料理を頼まなかった自分に遠慮して、頼んでいた料理を分けてくれた。さりげない優しさにちょっと嬉しくなる。こういうのが大人の付き合いなんだな。程よい距離感で。
「なんか緊張するからもう一杯頼んじゃいますけど、何か飲みますか?」
「そうですね。じゃぁ、同じのを。」
2杯目のレモンハイ。あんま女の子らしくない注文だなぁ、と思いつつおかわりをした。
だんだんお酒を飲んでいってお互いの緊張が解けてきたようで、仕事の話をしだした。異動の時期になったこと、今回も自分には内示が出なかったこと、上司のこと部下のこと。職種は違えど、この歳になると悩みのタネになることは同じことだった。
意気投合というのはこういうことを言うんだろうか。わーっとはならないけど、どこか俯瞰しているところ、淡々としているところ、一人になれているところ。なんとなく似通っている気がした。気づいたら一時間半くらい二人で飲んでいた。心地がいい。たまには、このご飯を済ましにくるお店で、二人飲みをするのも悪くないかもしれない。明日も仕事があるし、今日はこの辺で引き上げることにした。
帰る方面は一緒だ。いつも一人で帰る道を一緒に家まで帰る。これもなんとも不思議な感覚だ。家まで一緒だなんて。会話は相変わらず続いていた。でもプライベートな部分までは踏み込まない。気づいたら私の愚痴を聞いてもらうような形になっていた。お酒を少し飲みすぎたのかもしれない。
ここでさようなら、そんな別れ際、檜山さんがふと口にした。
「今度二人でご飯に行きませんか?」