久しぶりの再会
「あー疲れたー」
疲れが声に出てしまう。最近はため息だけじゃなく、疲れたを声に出してしまう癖が出てきてしまった。三十路を迎えた女子がこれでいいのだろうか。でも疲れたものは仕方ない。
もちろん職場ではこんなことは口にしない。年相応にしおらしく余裕のある女性を演じている。ただ、仕事に慣れるとおじさまたちのポンコツぶりも見えてくるので、それにも疲れてくる。なんで新入社員の時は威厳を感じていたのかは、今になっては謎に思ってしまう。
耳の中では、ジャスティン・ビーバーが「Sorry〜♪」と歌っている。ポンコツたちもこう謝ってほしいくらいだ。
ん〜、今日はストレスがだいぶ溜まってるな。ビールでも買って帰ろう。
「216円になります」
どうせならでマンションの中にあるベンチで夜風に当たる。昔はこんなことを一人でする日が来るとは思っていなかった。昼間の温かさと比べ随分涼しくなった。
「あっ」
なんとなく聞いたことのある声がした。横を向くと同じコンビニの袋を持って檜山さんが立っていた。
「あっ、すみません!女子一人が何してんだ、ですよね!もう帰りますので安心してください!」
「や、邪魔じゃなければ隣いいですか…?」
「あ、はい。どうぞ…」
まさかの言葉が。なんとなく探していたのに、いざ会うとめっきり何も出てこなくなる。恋らしきものをしばらくお休みしすぎたかな。
「あ、一つどうですか?」
おもむろにビールをくれた。自分も買っていたが、女子が買ってるので大丈夫ですというのもなんか変なような気がしたので、お言葉に甘えてもらうことにした。
「仕事いつもこれくらいの時間ですか?」
「はい、上司が飲みに行きたがって、帰ろうと思う時間に仕事を振ってくるんです」
「どこも同じですねー」
どこか遠くを見ながら交わすたわいもない会話。プライベートには触れない会話。ついつい仕事の愚痴が出る。なぜだかどこか心地がいい。相手のテリトリーに踏み込んでこない会話。気づいたら30分ほど経っていたのに、少し体が肌寒くなって気付いた。
「あ、こんな時間まですみません。話が久しぶりにできてよかったです。まだ残ってるので僕はもうちょいしたら帰るので、先に帰ってくださって結構ですよ」
チラッと時計を見たのに気付いたのか、飲んでるビールの缶を振りながら声をかけてくれた。なんというジェントルマン。でも知ってる、しばらく前にはもう飲み終わっていたことを。ただその言葉に甘えて帰ることにした。
久しぶりに会ったのに疲れた感じがしなかった。そしてまた会う約束なんかもしなかった。またあそこで会うのかな。この歳になるとこれくらいの距離感がなんだか気持ちいい。