嘘はつけない…
「千恵さんは何のお仕事されてるんですか?」
「あ、私は一応化粧品関係の仕事をしています」
「めっちゃ華やかな世界ですねぇ!」
「や、そんなことないですよー。地味なことばっかですよ」
大石さん感謝。とりあえず対面と直接いきなり話すことにならなくてよかった。でも、そんな避けるほどのことないのに、何を意識してるんだろ、私。何も檜山さんのこと知らないのに。スーパーで見かけて、マンションで見つかっただけなのに。
「お二人はどんなお仕事されてんですか?」
よし、さりげなく聞いてみた、自分!
「僕は、リテール関係。あ、いわゆる商品卸の仕事ですね。だから、智子さんの会社が取引先になるんで、よく出入りさせてもらってんです。で、檜山は不動産営業部。めちゃくちゃ商社とか言いながらドメスティックな仕事してるんです、僕ら(笑)」
「お前なんでも俺の紹介しすぎだろっ。話すことなくなるわ!」
「なんかいいコンビですね。ふふ。」
あ、檜山さんが口を開いた。不動産営業やってんだ。確かに誠実さはある、大石さんのノリのよさと違って。そして智子の合いの手で「ふふ。」ってほんと女の子っぽい声を出すな。
「そういえば、お二人はどちらに住んでんですか?」
やばいキタ、この質問。
「私は不動前で、千恵ちゃんは新丸子ですよぉ」
「不動前って、芸人さんがいるとこじゃん!誰か会った?って千恵さん新丸子なの?あれ檜山、もしかして一緒??」
智子…
やばーい。キタこの質問。やっぱり教科書通りのやつを大石聞きやがった。そして俺に振るんじゃない。はぁ、どうやってこの状況を乗り切るか。しょうがない、シラを切るしかないか…ってかなんで何の関係のない人に対して俺はドキドキしちゃってんだろう。
「新丸子、一緒ですね!どのあたりに住んでんですか?ってそこまで聞いたらストーカーみたいですよね(笑)」
ピクッと一瞬反応して見えた。
「駅をちょっと行ったところにあるセブンの近くです…檜山さんは?」
うっ、きっと話の展開上向こうも合わせてきてくれたんだろう。嘘をつくべきか、本当のことを言うべきか…
「あっ、俺もあのコンビニの近くなんです…もっ、もしかしたら会ってるかもしれないですね?」
何言っちゃってんだ俺。初対面だよ、あくまでも初対面。少なくとも話すのは。しかもこんな時に噛んでしまうとは。んー、逃げ出したい。でも、これってチャンスなのか?何をこんな時に考えてんだ。相手には相手がいるかもしれないわけで。
「帰りは期待しろっ」
ニヤつきながら大石が小さな声で耳打ちをしてきた。