お前、いつまで独身やってんの?
久しぶりに同期との飲むことに。ただ、調子乗って来るんじゃなかった、と若干思っている。
数時間前、役員プレゼンが無事通ったとのことで、部長が嬉しそうに起案した稟議を持ってやって来た。あのダメ出しを喰らった稟議がついに経営会議を通った。なんとも言えない達成感。実際はこれからなのだが、無事大きな壁を乗り越えた。とりあえず仕事に手がつかない。笑みが漏れ出してしまってしょうがない。壁を乗り越えたことより、部長のチャンスをちゃんと生かすことができたことへの喜び。課長が少し苦い顔をしているのがチラッと見えた。
そんな時、同期からメールが来た。
「今夜空いてる?久々に飲みに行かね?」
なんといいタイミングで祝福のメールが!ただ、今日は影の立役者の部長がいる。きっと誘いがあるかもしれないから、お伺いを立てねば。
「部長、今日空いてますか?」
「すまん、今日は行ってやりたいんだけど先客がいて…まぁ、今日お前もパーっと行きなさい」
なるほど意外な。あんな喜んでくれてた部長に先客がいるとは。きっと祝ってくれるだろう、そう思って早速同期に空いている旨の返信をした。
そして今。
「いやぁ、檜山が空いてて良かったよー。他の奴らみんな奥さんがとか言って付き合ってくんねーの」
なんだ祝福じゃないのか。そりゃそうだ、何も言ってないんだから以心伝心なんてないし。ちょっとメールが来た時に喜んだ自分が恥ずかしい。
聞いていれば愚痴、愚痴、愚痴。仕事、家庭、会社。よくもまぁそんな出るもんだと、ここまで来ると感心してしまう。30にもなれば溜まるものもあるか。夢だけじゃ食えなくて現実が見えて来る歳だし。ここは残飯処理班として受け止めよう。なんてったって今日は気分がいいのだ。
そう自分の中で納得させていたところに、
「で、お前、いつまで独身やってんの?」
なんとも上から目線の質問。自分は愚痴ってたくせに、さっきまで独り身の方がラクだとか言ってたくせに。
「知らんわ」
今回決裁をもらえた商談の中で、取引先の受付の子とちょっと仲良くなった。ガッキー似で可愛い。なんとか誘い出せないものかと、会社の名刺サイズのアロマカードを使って、自分の連絡先を渡すというあざとい手段で連絡先をゲット。しばらくLINEのやりとりをした。しかしながら、現在暗礁に乗り上げてしまっているのである。
と、そんな弱みは絶対言えない。部長のこないだの話に続いて最近はそんな結婚の話ばっかだ。
そんな時に天の恩恵が。
「あんた、いつ帰ってくんのよ?」
同期の奥さんからの電話だ。結局は偉そうに語っていたものの、奥さんには勝てないようだ。誘ったのにすまんと言って解散することになった。よかろうよかろう。
帰り道、ちょっとまだ今日の余韻に浸ってたくて、いつものコンビニに寄ってちょっと高いビールを買い、マンションの人通りの少ないベンチで一服する。うまっ。
いつまで独身やってんの?知らんがな。
夜空を見上げたら都会なのによく星が見えた。夜風も気持ちいい。
そう、ここが俺の独立国なのじゃ。