ciccioneの日記

30歳を過ぎて見切りで会社を退職した人間が、再び収入を得るような仕事に就けるまでの日々を記録していきたい。

仲直りってどうすればいいんだろう。

最近、ちょっとしたすれ違いでイラっとしてしまった。

休日、ゆきと智子何人かで集まる予定だった。ちょっとしたきっかけで知り合った仲間。集まる予定といっても、何時にどこと言うことが全く決まっていなかった。決まっていたことと言えば、智子がなんかみんなでやってみたいことがあるから相談したい、それだけだった。

こっちも決して暇人ではない。午後なら空いてるとはいったものの、集まる前に何か用をしておきたい、そういう思いで、何時にどこ集合かを聞いた。それがなかなか決まらない。当日になっても決まらない。なぜか相談したい、と言っていたはずなのに、的外れな方向でLINEは盛り上がっていった。

どうでもいい。くだらない。

そう思ってしまっていた。時間と場所だけ教えてくれ。それになぜか当日体調が悪くなってしまった。でも、どうせ夜別件で同じメンバーが揃う機会はあった。だからその合間の時間に集まろう、という話である。よくよく今になって考えればその時に顔を出すという選択肢を選べばよかった。

自分のはっきりしないことが嫌、という性格が出てしまったのだろう。

時間とざっくり品川集合ということはようやく決まった。決まったものの、調子がいまいち優れない。「夕方前には行ける。店が決まったら教えて欲しい」とゆきに連絡をして、体調の回復を待った。残念ながら体調が回復する兆しはなく時間どおりには出なければ、そう思い家を出た。16:00には着きます。グループLINEに連絡を入れた。帰ってきた答えは、

「ごめん、新宿にいる。」

だから先にどっか入っといて、とのこと。当初の予定だと品川集合だった。そして新宿での写真を送ってきた。

は〜ぁ?

イラついた。お店決まったら連絡をして、16:00に着くからと言ったはずなのに改札を通ってこっちから連絡したらこの有様だ。そもそも品川予定なはずだったのに(自分の中では)、新宿になっているとは話が違う。

「写真とかどうでもいい。結局どこへ行けばいいわけ?」

ついそんな返しを送ってしまった。別に頼んでいたゆきを責めている訳ではない。とはいえ、ちょっとはイラっとしてしまったのも事実。何より相談したいといったはずの智子が主旨と違って、単に遊びに行ったのに腹が立っていたのだ。家を出なければよかった。

しょうがないから楓ちゃんが早めに来れるということだったので、先に合流して来るのを待った。

1時間ほどしてからゆき、智子、潤の3人が楽しそうにやってきた。潤は悪くない。相談したいって何?って聞いたものの濁されただけの人だから。問題は智子だ。ただ楽しんだだけ、何の悪びれる様子もなく、その相談したいといった内容には一切触れず、新宿で買い物を楽しんだだけの話をしているだけだった。

苛立ちの向かう方向がない。

でも、むんむんと自分からは不機嫌オーラは存分に出ていた(はずである)。勉強会にみんなで行っても会話はしない。というか調子が悪いが基本何だけど。向こうからしても何でイラつかれてるのか分からないといった様子。ゆきの顔もまともに見れなかった。個別に連絡をお願いしていたのに、楽しさでそれを忘れてしまっていたようで。でも彼女はそういう性格でもある。

そう自分を納得させつつも、一度イラつくと自分でも収拾がつかなくなる部分がある。一緒にいても何もいいことはない。だから勉強会の後の懇親会は出なかった。

誰が悪い?自分か?そんな怒ることでもなかったのか?やっぱり智子だよね?でも智子はいつもこんな調子。そして、みんなつい最近知り合った子。大して知らない間柄。まともに相談という言葉に乗ってしまった自分にも腹が立つ。そんな堂々巡りの考えをしながら調子が悪いのに缶チューハイをぐびぐびっと飲んだ。やけ酒だ。体調が悪いから余計に悪くなった。

最悪。

翌日、一番気まずくなったが、本当はゆきが悪いわけではないので、言い分付きで「ごめん」と反省のメールを送った。それで自分の気持ちがスッキリするならば。きっと誰のせいでもない。噛み合わなかっただけ。そう思って。

でも、一日待っても返信はなかった。怒ったのかな?逆に不安になる。そんな怒られることだったりもすることだったのかな?でもこっちだって…ってその先を考えるとまた一から戻ってしまう。だから考えないようにする。

別に毎日顔を合わせる仲な訳ではない。その分次回あった時、どういう顔をして会えばいいのだろう。何もなかったことにするのかな。やっぱりこっちからもう一度「ごめん」なのかな?

そう考えながらの月曜の憂鬱な出勤になってしまった。人混みに揉まれ、仕事に追われこんな感情どっか行ってくれればいいのに。

大人になって表面的な付き合いが多くなったから、怒ることなんてなかった。みんな表面的だから約束は守るし。この歳になるとどうやって仲直りすればいいんだろう。学生時代だったらきっともっと簡単に仲直りできたんだろうな。

人はかくも分かり合えない生き物なのだろうか。

お前、いつまで独身やってんの?

久しぶりに同期との飲むことに。ただ、調子乗って来るんじゃなかった、と若干思っている。

数時間前、役員プレゼンが無事通ったとのことで、部長が嬉しそうに起案した稟議を持ってやって来た。あのダメ出しを喰らった稟議がついに経営会議を通った。なんとも言えない達成感。実際はこれからなのだが、無事大きな壁を乗り越えた。とりあえず仕事に手がつかない。笑みが漏れ出してしまってしょうがない。壁を乗り越えたことより、部長のチャンスをちゃんと生かすことができたことへの喜び。課長が少し苦い顔をしているのがチラッと見えた。

そんな時、同期からメールが来た。

「今夜空いてる?久々に飲みに行かね?」

なんといいタイミングで祝福のメールが!ただ、今日は影の立役者の部長がいる。きっと誘いがあるかもしれないから、お伺いを立てねば。

「部長、今日空いてますか?」

「すまん、今日は行ってやりたいんだけど先客がいて…まぁ、今日お前もパーっと行きなさい」

なるほど意外な。あんな喜んでくれてた部長に先客がいるとは。きっと祝ってくれるだろう、そう思って早速同期に空いている旨の返信をした。

そして今。

「いやぁ、檜山が空いてて良かったよー。他の奴らみんな奥さんがとか言って付き合ってくんねーの」

なんだ祝福じゃないのか。そりゃそうだ、何も言ってないんだから以心伝心なんてないし。ちょっとメールが来た時に喜んだ自分が恥ずかしい。

聞いていれば愚痴、愚痴、愚痴。仕事、家庭、会社。よくもまぁそんな出るもんだと、ここまで来ると感心してしまう。30にもなれば溜まるものもあるか。夢だけじゃ食えなくて現実が見えて来る歳だし。ここは残飯処理班として受け止めよう。なんてったって今日は気分がいいのだ。

そう自分の中で納得させていたところに、

「で、お前、いつまで独身やってんの?」

なんとも上から目線の質問。自分は愚痴ってたくせに、さっきまで独り身の方がラクだとか言ってたくせに。

「知らんわ」

今回決裁をもらえた商談の中で、取引先の受付の子とちょっと仲良くなった。ガッキー似で可愛い。なんとか誘い出せないものかと、会社の名刺サイズのアロマカードを使って、自分の連絡先を渡すというあざとい手段で連絡先をゲット。しばらくLINEのやりとりをした。しかしながら、現在暗礁に乗り上げてしまっているのである。

と、そんな弱みは絶対言えない。部長のこないだの話に続いて最近はそんな結婚の話ばっかだ。

そんな時に天の恩恵が。

「あんた、いつ帰ってくんのよ?」

同期の奥さんからの電話だ。結局は偉そうに語っていたものの、奥さんには勝てないようだ。誘ったのにすまんと言って解散することになった。よかろうよかろう。

帰り道、ちょっとまだ今日の余韻に浸ってたくて、いつものコンビニに寄ってちょっと高いビールを買い、マンションの人通りの少ないベンチで一服する。うまっ。

いつまで独身やってんの?知らんがな。

夜空を見上げたら都会なのによく星が見えた。夜風も気持ちいい。

そう、ここが俺の独立国なのじゃ。

これから、恋をしよう。

「ちょっと帰り遅くなるかもー!」

「気を付けて行ってきなさいよー」

同じフロアの2部屋隣の家から母娘の声がした。

今日はお盆だし、休みを久々に取った。しかしながら、あいにくの雨。好きなだけ寝て、掃除して、撮り溜めていたビデオを見て、あっという間に夕方になってしまった。しもたー。せっかくの休日が・・・。懺悔に苛まれつつ、せめて料理の買い出しぐらいは行こうか、という時に聞こえてきた会話。

明るく元気な声、セミロングの髪を丁寧に結った髪型。中学生だろうか。浴衣を着て、ちょっとおめかしをして。いいな、若いって。

あ、そうか。今日は多摩川の花火か・・・近所やし。

低層階のマンション。既に女の子は下に降りて、お友達と合流したようだ。別の女の子1人と男の子2人。ダブルデートか。やっぱり若いっていいっ!ダブルデートなんて制服組の特権でしかない。それにしてもこの雨で花火はやるのかな。まぁ、もしダメでも一緒にいることが無性に楽しい年頃だから、なんでもいいのか。

そんなことを考えつつ、近所のスーパーへ向かう。休みの日だし何を作ろう。かといって手の込んだ料理よりもさっぱりしたものが食べたい。とりあえず、最近マストになっている豆腐に枝豆。そうだ今日は豆腐サラダを食べよう。「いすゞ」続きで最近はちょっと野菜不足だし。何より料理が簡単だ。買い物をし店を出た時、見たことある顔がスーパーにすっと入ってった。

あ、あの人・・・こっちの人だったんだ。

いすゞ」で見かけた人、余計どこで会った人だったか気になる。というか、もうかなり近距離内にいる存在だということは分かった。

帰って、とりあえず冷やしておいたビールを開ける。うん、美味いっ!お酒を飲みながら料理をすることほど、楽しい料理はない。その時、花火の始まりの音が聞こえた。ご飯を炊いている間に味噌汁を作る。その後にレタス、トマト、コーンなどを入れた特製豆腐サラダを。ゴマ油で作ったタレが意外と美味しい。食欲が湧かない夏はよくこれを食べる。

ドーン、ドーン。

花火が始まったようだ。ちょっと気になってベランダに出る。雨は小雨になっていた。あの子たちは楽しく花火を見てるんだろうな。きっとすごーい!とか言いながら。部屋から見える花火も十分キレイに見えた。やっぱり今日は有給取ってよかった。こうやってゆっくり家から花火が見れてんだから。

せっかくならちょっと気分を変えて暑いけど、ベランダで花火を見ながらご飯でも食べよう。柄でもないかもしれないけど。部屋の間接照明をベランダ側に向けて。

なんかいいな中学生。

ゆっくり恋しよう、なんてこないだ思ったけど、訂正。これから、恋しよう。なんかそう思えた。もしかしてあの人だったりして・・・なんて。そう思ってしまったのは、夏のイタズラかな。

 

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コトバって十分、凶器。

コトバって人を動かす。

人を慰めたり、人にやる気にさせたり。

 

でも、時にも凶器のように人を刺す。

当然のことだし、みんな知っていることだけど。

強いコトバほど、心に深く突き刺刺さり、切り裂く。

執拗なコトバほど、人を粉々に打ち砕く。

 

鋭利なナイフや、トンカチみたいな鈍器のようなものじゃなくたって、

一番身近で、誰でも持っている凶器。

 

日々扱う分、丁寧に扱いたい。

だって毎日振り回しているものだから。

 

使うなら人のために使いたい。癒すために使いたい。

使うなら、文字にするなら尚更、人のためを思いたい。

誰もコトバの正しい取り扱いについては説明してくれない。

だから、日々自分で気をつけるしかない。

 

見えない凶器、そんなものを24時間口にしていることを忘れてはいけない。

そう思った、今日この頃。

どこかで夏の陽炎。

うだるような暑さ。歩けばすぐ汗が背中を流れる

改めて思う、なぜ夏場もスーツなんだろう。社会人としっかりして見えるためだけなのだろうか。であれば、クリエイティブと呼ばれる業種の人たちが羨ましい。

そんなことを思いながら今日も出勤をする。サマータイムで1時間前倒しの始業と終業。ただ、自分はフレックスというていでいつも通りの時間に出社する。それくらいは許されていいだろう。

お盆はやはり電車も空いているので、そこだけが何よりもの救いである。あの夏場の体温の高いおじさんたちと背中合わせにして電車に乗るのなんて嫌なものだ。だからジャケットはいつも着用。シャツ一枚で触れるなんて考えられない。

お盆のいいところは、仕事自体が少なくなることと、会社からも人が減ることだ。つまり自由。それに尽きる。夏休みがいつでも取れるというのがこの会社のいいとこである。ちなみに今日は部長が帰省中のため、のんびり仕事ができる。

午前中は、週明けの再度の役員プレゼン資料を修正して過ごす。部長よ、チャンスをくれて感謝。心の中で思う、頼るべきは飲み友。

お昼。いつもなら部長以下、男性陣に誘われていくのだが、今日は部長不在。課長はそれをいいことに、ちょっとフライング気味に昼食に行った。結局みんなお盆は仕事をしていてもお休み中なんだと思う。

久し振りに部署の女性陣と昼食にいくことにした。この場合はランチか。何食べにいくかは女性陣に任せた。男同士だと、定食、中華、うどん、だいたいそのあたりが定番。しかも一緒に行く割には特に何を話す訳でもなく、さっさと食べて早々に会社に戻り、みんな昼寝をする。それぐらいの関係なら一人でご飯を食べれないのかと時々思う。

と、女子は何を食べに行くんだろうと思ったらタイ料理だった。タイカレーを食べてしっかりと汗をかきたいらしい。女性はやはりたくましい。そして俺の前で汗かきたいって俺は男性として見られてないのか?

「檜山さんは、どこか夏休み行かないんですかー?」

と若い子が聞いてきた。

あれっ。

女性が前を通りすぎた。どっかで見た気が。

「あ、今のところ予定はないかな。秋過ぎの空いた時期に行きたいなって思ってる」

お店についた。女性客がたくさん。女性って会社じゃ涼しい顔してるけど、結構夏にあえて汗をかくようなもの食べるんだと感心する。女子に疎い訳ではなく、会社じゃ女子力高いと言われるくらいの扱われ方をしているが、さすがにここ最近おじさま方とざるそばばかり食べてると、鈍ってくるものがある。

「檜山さんって、今年も星野ですか?」

「行きたいね、お金があれば」

ここ最近星野リゾートにハマっている。毎回そこのお土産を買ってるから、そんな話に。

「ゆきちゃんは?」

女子はやはり会話が弾むものだなとつくづく思う。おじさんたちのちょっとの会話と、お昼寝に付き合わされてるぐらいなら女子とランチしている方がどれだけ情報収集に有効か。

午後は、惰性でほぼ過ごす。ちょっといつもより丁寧に後輩の指導をしながら。課長は外回りで直帰とのこと。お盆のこの時期、大して外回りするような取引先はない。メーカーが多いから、工場のお盆に合わせて本社も休みに入るからだ。なので、きっとサボりだ。全員お休みモード。だらだらと会話をしたりお菓子を食べたり。年次が上だけど課長がサボってるのだから、率先してだらける。

みんなはサマータイムなので、17時過ぎてパラパラと退社していった。ランチの時にも話していたのだが、やっぱりみんな夏は恋に忙しいのか、駆け足で帰っていく。ちなみに自分は、恋は久方お休み中である。夏だけど冬眠状態。

暑さがまだ引かない中帰路についた。いつものコンビニの前を通りかかる。寄るかどうか考えたが、今日は自炊にしよう。

あれっ。

コンビニを過ぎようとした時に、どこかで見た顔が。あ、昼ランチに行く時に見た顔だ。近所の人なのか?気になったので、ストーカーよろしく、ちょっとコンビニに入ってみる。やっぱりそうだ。というか、

いすゞ」で部長と飲んでる時に見た人だ。

コンビニに入る時のあのメロディーのおかげで目が合った。心がなぜだかちょっとキュッとした。

入っただけだと変だから、缶チューハイを買うことに。

「108円になります」

帰って、さっと簡単にゴーヤチャンプルーを作り、風が気持ちよくなってきたので、狭いベランダに置いた折りたたみの机と椅子にランタンを灯して、缶チューハイを飲みながら食べることに。ちょっとした非日常の気分。街もお盆で静か。ちょうどいい。

「あの人、こっちの人なんだ・・・」

ちょっとなんだか夏の胸騒ぎがした。

私、酔わなきゃやってけません。

仕事が遅くなりもう、21時前。このまま帰ってご飯を作るか、それとも外で食べて帰るか。今日の気分は、どう考えても作る気にはならない。というかこの時間からご飯を作る気にはなれない。ホントはもう30歳、しっかり自炊をして栄養バランスを考えて食事をしないといけないのだが、今日は一杯飲まないとやってられない気分だ。

とは言え、誰か誘う感じでもない。仕方ない、会社の人の来ないいつもの店に行こう。ちょっと会社から離れた気軽に入れるこじんまりしたお店「串焼きいすゞ」。意外とよく一人でご飯を食べに行く。いつからだろう、こうやって一人で普通に居酒屋でご飯を食べれるようになったのは。

道中、今日の出来事がわざわざ頭の片隅から戻ってきた。

「すいません、GOサイン出しちゃいました。。」

後輩がまだ校正中の広告を課長の(というかもっと上までの)確認を取る前に、オンスケにしないとという謎の理由で、色校に回してしまったのである。確かに校正の出し戻しが多く、遅れていた部分は否めない。ただ、色校に進める=ほぼ中身が固まったということ。色校の後に再度修正を加えるとなると、やや困るのだ。彼女が先方に伝えたのが16時過ぎ。その報告が入ったのが、18時手前。急いで制作会社に連絡をし、事情を伝え印刷会社に色校に回すのをなんとかストップさせた。何よりその後が面倒臭かった。グチグチ言い出す課長の説得ををはじめ、方々に事情の説明と今後のスケジュールの再度調整等々を行い、バタバタと動き今に至る。同じ担当で先輩後輩とは言え、完全に尻拭いだ。ほんとは本人にやらせてもよかったんだけど。

スケジューリングを任せたのは自分だし。いやいや、確認なしで進めるのはそれも違う。納得させようとする自分と認められない自分の葛藤が当然のように始まる。

幸いなのかどうなのか、後輩は何もせずまごまごしていたが、さすがに退社せず残ってはいた。一通り注意をし、今後の進め方を再度確認をした上で帰宅させた。まだ26だ致し方ない。

はー、疲れる・・・

声に出して言いたいくらいだ。ただ、声に出すと一歳老けるような気がするので止める。

ガラガラガラ。

店の戸を開けた。意外と今日は混んでるな。まぁ、いつもカウンター席だから変わんないんだけど。

あっ・・・

上着を椅子にかけようとした時、反対のテーブル席に座っている男性二人組と目が合った。若い方はどっかで見た覚えが。誰だっけ。見た顔だけど、仕事関係か、それともなんだ学生時代の誰かか?・・・ダメだ思い出せん。

串焼きセットとビールを注文。あ、レモンサワーにしておけばよかったと思った時には遅かった。手際よくビールとお通しの枝豆が運ばれてきた。

後ろの二人組は、部下らしき男性と歳が近い娘の結婚について、上司と思われる男性が話をしているようだった。結婚についてか。若い男性は結婚はまだ遠いものな気がすると言っていた。激しく同意。ついこの間、ゆっくり恋をしようと決めたばかりである。まだまだ焦ることなかれ。部下は同い年だということが分かった。

グビッと一杯ビールを飲み干す。美味い。

やはり仕事の後のビールは美味い。格別である。もはや中身が若干オヤジ化してきてはいるが、その辺はご愛嬌。

串焼きセットも美味いのである。特にごま油のこの白レバーが。

「お母さん、レモンサワー!」

「はいよー」

レモンサワーも気持ちよくグビッといく。そして

思う!仕事のことは考えない。でも、私、酔わなきゃやってけません!

そしてしばらくしてあの二人客は店を出て行った。

そうなんだ。人間の時計は、早すぎる。

「さて、どうしたものか」

娘の婚約話は突然やってきた。妻の後押しもあり、決して相手が悪い訳でもないから、婚約を認めることにした。吉田くん、吉田みさきになるのか。そんなことばかりが頭をよぎって、今週は数字を何度二度見したことか。ちょっと婿候補がどんな価値観を持ってるのか、もう少し聞いておけばよかったと今更ながらちょっと反省している。

「檜山、今日夜空いてるか」

彼はよく飲む間柄だ。年齢も近そうだし、仮想婿として話を聞くにはちょうどいい。それにそんな変な感じには聞こえないだろう。でも、檜山のプライベートを聞いてみてもいいものか。その点はちょっと思う。ただ、聞いてみたいが心を強く押した。

「どうだー檜山、調子は」

檜山も仕事は忙しそうだ。とは言え、まずは管理職の立場から全員を早く帰すのが役割だから声がけは致し方なし。それにしてもワークライフバランスが取れている会社をアピールするために、部下の尻を叩くのには気がひける。その点、課長の高橋は気が利かない。

「部長、あとでお話が」

ヒソヒソと高橋が声をかけてきた。どうやら檜山のことで、こもって話がしたいらしい。檜山が身支度を終えて呼んできたが、先に行っておいてもらうことにした。高橋かの話は、今日の檜山の役員プレゼンの件だった。聞いている限り、高橋の援護射撃の弱さにあるように思えた。まだ檜山は若いのに役員プレゼンは荷が重い。と、まずいそんな檜山を待たせ過ぎてる。高橋の報告は分かったとし、駆け足で行きつけの「串焼きいすゞ」に向かった。役員には自分から明日補足して回ろう。

「おーすまないな」

檜山がすでに数品頼んで、ビールも着くタイミングで出るように頼んでくれていた。気が効く部下だ。

乾杯。

「檜山、どうだ調子は」

「いやぁ、ぼちぼちです」

とりあえず仕事の話から始めたが、どうやら少しトーンが暗いようだった。今日の役員プレゼンのことを引きずっているのだろう。ただ、援護射撃が悪かったと思うが、それも一つの経験だ。気を紛らせるように、他も決して良いわけではないとつらつら話をした。意外と檜山のピッチが早い。つられて自分も飲んでしまった。帰ったら酒臭いと妻と娘に言われるんだろうな。

「ところで檜山は、結婚どうなんだ?」

一通り落ち着いたし、ちょっと聞いてみた。

「やっ、結婚とか正直イメージできないです・・・まだ30というか、でも、もう30というか。周りの同期は結婚してしてってますし」

そっか、檜山は30だったか。まだ、30というか、でも、もう30か。言われてみれば自分もそれくらいには結婚したな。それで気づいたら、娘を送り出す時がきてしまった。人間の時計は、早すぎる。ついぽろっと、そんなことを口にしてしまった。檜山が、ん?という顔をした。それで、ついつい娘の結婚について話をしてしまった。

「はぁ、いろいろあったんですね。でも、その彼すごいですね、しっかり一つの儀式を通過して。僕にはまだ無理そうです」

思わぬこちらからの人生相談。でもそうか、ちゃんと話をしてきた吉田くんはしっかりしてるんだな。価値観を聞くつもりが、その一言だけでなんか腑に落ちたものがあった。同世代から見てしっかりしているんだと。そのあとも身の上話や、檜山の結婚観を聞いたりした。

そんな時、娘と同い年くらいの女性が店に一人で入ってきた。

なんとなく気になり、檜山が帰りを促してきたが、もうちょっと話していたい気分になった。気づいたら22時。さすがに檜山に悪いので、解散することにした。檜山は駅で私の姿が見えなくなるまで、ごちそうさまでしたと頭を下げていてくれている。しっかりした子だ。吉田くんもこう立派な子なんだろうか。ゆとりだなんだ言うけれどしっかりしているな、最近の若い子は。そう言う意味では高橋は・・・

話し込んで帰りが思ったより遅くなってしまった。早足で家路に向かうが、きっと帰ったら妻と娘に汗臭い、酒臭いと言われるのだろう。

それにしても、人間の時計は、早すぎる。改めて檜山と話をしてそう感じた。